非常に興味深いデータがいっぱい詰まっている本。著者は世銀のエコノミストとして25年間にわたり「不平等」について研究を続けてきた人。最近の統計学の進歩には目を見張るものがあり、同一国国内の所得分布に限らず、いままで不可能とされていた地球規模での、更に時系列で歴史的にも、細かい実質データが明確になりつつあるのだ。この本では、1)特定国国内での所得資産の不平等、2)各国所得水準の国際比較での不平等、3)さらにグローバルに地球レベルで個人間の所得資産の不平等〔1と2を合わせたもの〕について現状と傾向が明らかにされる。裨益するところ多大。
特に興味深いのは上記3〕のグローバル個人比較での不平等である。地球に住む個人の豊かさは、ほぼ100%その出身地によって規定されることが明らかになる〔インドに生まれた人はどんなに努力して国内で裕福になろうともアメリカ人の低所得者層よりリッチになれないとか。同じことが日本とバングラディッシュでも言える〕。従来「不平等」を取りあげて問題視する人は常に「国内での」不平等を問題にしてきた。国際間の不平等は「これは市場が決定するもの」として逃げるのが通例。国内では「格差をつくり出すもの」として市場を否定し、グローバルには市場を肯定するご都合主義がまかり通っているのだ。この本で明らかになるのは、有り体に言えば先進国の労働者が低開発国の労働者を搾取しているという構図である。これは我々にとってはまことに寝覚めの悪い「厳然たる事実」である。
「不平等是正」とか「格差是正」問題についての議論は往々にして毒を含む。必ず嫉妬心にもとづく再分配の議論に繋がるからだ。国内にだけ目を向けて「格差是正」を叫ぶことで「正義の味方」を気取れても、グローバルに同じことをする勇気のある人が少ないだろう。しかし、グローバル化がこれだけ進行しているなか、世界人口の大部分の人たちが「不平等」問題に過敏になりつつある。自分が再分配を受けるつもりになって「格差是正」の世界を実現させれば、再分配を受けるなんてとんでもない見当違いで、自分は再分配をしなければならない立場であることに気がつく人がなんと多いことか。
経済理論としても、過去の格差問題に関する経済学分野での成果が要領よくまとめて紹介されている。この本はお薦め。
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